こんにちは、ゆうぞう(@you3tips)です。
土地家屋調査士の業務には『境界確認業務』といって、測量する土地(以下本地)に隣接する土地所有者と立会いのもと、境界は「ここだ」と確認する業務があります。
境界確認の結果を「筆界確認書」や「境界承諾書」と呼ばれる書面として調えますが、
これらは実務上、分筆登記や地積更正登記の際に法務局へ提出したり、不動産売買で使用されたりします。
登記申請の法定添付書類ではない筆界確認書ですが、登記する上で筆界(≒境界)の明確化が求められるので提出が事実上不可欠となっています。
また不動産売買においては「境界が不明確であること」「公簿面積と実測面積の差による不動産価値の変化」などのリスクから、境界確認の需要とその重要性が増しています。
そして境界をはっきりさせることは「境界の専門家」である土地家屋調査士の専門業務であり、本職の醍醐味でもあります。
しかし近年問題視されている所有者不明の土地(所有者特定に困難を伴う)が隣接地になると業務が滞るケースがあり、少なからず直面する機会が増えているように感じます。
今回は測量する本地の隣接地が『所有者不明の土地』『所有者特定に困難を伴う土地』だった場合の対処法、特に所有者を特定する手順について、考えていきます。
Contents
一般的におこなう所有者の調査方法
1|登記簿の所有権登記名義人(表題部所有者)を確認する
境界立会を求める相手は原則『所有権登記名義人』なので、土地の登記記録(登記簿)に記載されている所有者を確認します。
登記記録から所有者と現住所が特定でき、実際に居住しているのであれば何も大きな問題はありません。後は直接連絡して、立会をお願いすれば良いと思います。
しかし登記記録と現在の所有者情報がリンクしない場合もあります。例を挙げると下記のようなケースです。
- 登記後に住所を移転して、登記記録を変更していない
- 登記記録の所有者が亡くなり、その後の相続登記をおこなわず放置されている
その理由として、所有権保存登記、所有権移転登記、住所変更登記などの「権利の登記」が義務登記ではないことが挙げられます。
※不動産登記は第三者に対する対抗要件だからです。
なので登記記録に変更事項があったとしても長年放置されているケースが非常に多いです。
したがって上記のことに十分注意つつ、
初期調査では登記記録を閲覧し、隣接地もしくは登記簿住所へ赴き所有者との接触を試みることになります。
初期調査で所有者の居所が掴めなければ、次は現住所の調査を掘り下げていきます。
2|住民票・戸籍の附票で現住所の確認
登記記録から所有者の現住所が分からない場合具体的に何をおこなうかですが、土地家屋調査士の職務上請求で住民票や戸籍の附票を取得します。
住民票請求の特徴を挙げてみます。
- 現住所と前住所が記載される
- 他市・他県に転出していると、転出先でも取得する必要がある
- 登記簿住所からの請求で対応してもらえる
- 住民票の除票は他市などへ転出から保存期間5年
住民票は「請求はし易いが住所の変遷までは分からない」といえるでしょうか。
次に戸籍の附票請求の特徴を挙げます。
- 戸籍を登録してからの住所の変遷が記載される
- 他市・他県に転出していても全て記載される
- 本籍が分からないと請求できない
- 除附票は除籍から保存期間5年
戸籍の附票は「請求し辛いが住所の変遷がわかる」といえるでしょうか。
なので、「住民票で本籍記載のものを請求して、必要であれば戸籍の附票も取得する」という調査の流れになります。
住民票・戸籍の附票の調査がスムーズであればこの段階で所有者の現住所は特定できると思います。
注意点として上記に記載しましたが、
除票を取得する際、住民票であれば転出してから、戸籍の除附票であれば新しい本籍を登録してから保存期間が5年となります。
市町村ごとで取扱いが異なる場合がありますが、基本的には5年経過で破棄して良いことになっています。
なので登記記録の年月日があまりに古く他の市町村に転出している場合、高い確率で現住所を追えなくなります。
所有者が生存している場合は上記の方法で特定していきますが、
所有者が亡くなっているケースではどう対応するか考えていきたいと思います。
3|戸籍調査による法定相続人や管理者の特定
まず所有者がお亡くなりになっている場合は法定相続人や管理者を特定して、境界確認を求める必要があります。
登記簿や住民票だけでは相続が発生した場合に相手方を特定することができませんので、
この場合も土地家屋調査士の職務上請求で隣地所有者の戸籍を調査し、親、配偶者、子供、場合によっては兄弟や孫まで調査することになります。
調査が1つの市町村で事足りるのであれば、比較的時間をかけず済むかもしれません。ですがこれが隣の市だったり、他県だったりすると請求して書類を掻き集めるだけでもかなりの時間と労力、更には実費が嵩むことになります。
多くの案件はここまでで何かしらの情報が得られ所有者、相続人、管理人の1人に辿りつくと思います。
しかしそれでも所有者の現住所や相続人が分からない(途中までしか追えない)ケースもやはり出てくるのです。
そして、そのような案件が『所有者不明の土地』になり今問題視されているわけです。
問題になっているレベルなので「どうやって解決するのか」具体的な方法は確立しているわけではありません。
でも敢えて試してみるとすれば、あとはアナログな方法しかないと思います。
4|最終手段は聞き取り調査
かなり原始的ですが、残された手段は「聞き取り調査」だと思います。
しかしこれが結構有効な場合があります。田舎のほうだと近隣との付き合いが結構あるので、近所の方は皆知り合いだったりします。空家になっている場合でも隣の方や部落の代表者などが連絡先を知っていたりするもので、意外と所有者に繋がるケースがあります。
またアパートや貸家、売物件であれば管理する不動産会社に聞取りすると繋いでくれます。
この聞取りの一番の注意点としては、「相手に不信感を抱かせないこと」かと思います。
隣地挨拶も同様なのですが、
直接関係ない近所の方だったり、部落の代表者であっても調査の目的や趣旨など真摯に説明することが必要です。
こういう事をしていると「自分の職業って一体・・・・」と思ったりもしますが、こんな探偵じみたことも土地家屋調査士は業務に係わる範囲内でおこなうのです。
もっと別の方法はないのかな?
上記で一般的な隣地所有者を特定する手順をご説明しましたが、それでも所有者の現住所や相続人、管理者などが見つけられない場合はどうしたらよいか。
まだ認められていないことですが、固定資産税台帳を職務上請求で確認することが出来れば、納税者が分かるので所有者不明の障害は大分解消されるはずだと私は思っています。
- 固定資産税台帳とは
また、固定資産税台帳のほかに考え得る台帳を調べてみると下記のようなものもがあるそうです。
- 建築確認申請書
- 農地台帳
- 森林簿
- 保安林台帳
- 林地所有者台帳
固定資産税の納税者が分かれば、所有者もしくは身内の方、管理されている方に必ず行き着きます。
もし可能であれば、住民票を様々な市町村で取得する必要もなくなるし、戸籍だって無用心に取得しまくらなくても済むわけです。
しかし現状は個人情報保護の関係でむやみやたらと教えてくれる筈も無く、住民票や戸籍の取得を許されているまでにとどまるのです。
固定資産税台帳記載事項は本当に教えてもらえないの?一か八かで役場の税務課に行って聞いてきた
本人からの委任状がないと固定資産税台帳の請求はでないので、隣接地所有者が見つけられない場合は当然ですが委任状をもらうことは出来ません。
しかし残りの手立てが固定資産税台帳しか無いのであれば何とかして知りたいわけです。
なので、実際のところ本当に教えてもらえないのか。市役所で聞いてきました。丁度良い案件もあったので。
・・・・・・・・・ですよね。
やっぱり個人情報は現代社会ではとてもとても重要な情報。
そう易々とは教えていただけないのが現状でした。
土地家屋調査士連合会でもこの議題は検討されていることを聞いたことがありますので、もしかしたら業務に係る範囲内で可能になるなんてことがあるかもしれません。私はかなり期待しています。
個人情報の保護も分かりますが、『空家』『所有者不明地』は増加の一途です。このバランスがとれた仕組みが早く確立するといいのですが。
最後に
測量する本地の隣接地が『所有者不明の土地』『所有者特定に困難を伴う土地』であるケースはこれから増加していくと思います。
境界確認をおこなう相手が見つからず、不動産取引がダメになってしまうケースだってきっと増えていくでしょう。
そうなっては土地家屋調査士法第1条の「不動産に係る国民の権利の明確化に寄与すること」が難しくなってきます。
『空家』『所有者不明地』が社会問題であるならば、この問題と向き合わなければならない職種に対して調査権限の拡張などもう少しだけ柔軟な対応があってほしいなと私は思います。
最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは、また。